『グリーンブック』は、第91回アカデミー賞作品賞を受賞した、1960年代のアメリカ南部を舞台にした映画です。ニューヨークの郵便配達員だったビクター・ヒューゴ・グリーンが、1936年に創刊した、黒人が自動車で旅行する際に安全に利用できる施設を掲載した旅行ガイドブック「Green Book」をモチーフにしています。映画の中で、白人運転手のトニーと黒人ピアニストのドクター・シャーリーが旅を共にしながら、様々な人種差別や偏見に立ち向かっていきます。
映画の中で、トニーがドライブインで翡翠(ひすい)の石を拾うシーンがあります。ドクター・シャーリーはそれを返すように言いますが、トニーは「盗ったわけではない、落ちていた石を拾っただけ」と言います。このエピソードは、私に20年前に取引先の招きで訪れた前橋市の「だるま市」を思い出させました。
その時、取引先の社長は贔屓にしている露店で、特大のだるまを購入しました。年の初めの達磨は、1年間の商売繁盛を託す縁起もので、値切るほど縁起が良いと聞いていましたが、値切る素振りもなく1年ぶりの再会を懐かしんでお金を支払いました。
同行した社員は、伝統的な因習に従ってか、約束事のように、山積みされた達磨の裾から達磨を何個かくすねました。店側も「福のお裾分け」を歓迎しているように見えました。その達磨を抱え新幹線で帰った記憶が、トニーの石のエピソードと重なりました。
また、大阪の住吉大社には「五大力の石探し」という風習があります。小石を拾ってお守りにすると、体力・智力・財力・福力・寿力(寿命力)の5つの運力が授けられるというものです。
五所御前の杉の根元には石玉垣の中に、「五」「大」「力」と墨書きされた石が紛れており、3個1組で探し当て、それをお守りにすると、体力・智力・財力・福力・寿力(寿命力)の5つの運力が授けられるというものです。願いが叶ったら、「お礼参りはご近所の小石に御自身で、五・大・力と書いたものを用意し拾われた石と共に倍返しにしてお入れ下さい」とあります。
この風習も、トニーが拾った翡翠の石と重なり、どこかで聞いた話が現実にあったような気がしました。
『グリーンブック』は品位を保つことの重要性を説いています。
ドクター・シャーリーの演奏を聴きにくる白人の富裕層は、ドクター・シャーリーの音楽的才能を賞賛しながらも、同じホテルには泊めない、同じ席で食事をしない、違うトイレを使わせる。彼らは何ら悪びれることもなく、演奏を存分に堪能し、平然と「ここでは、そういう決まりだから」と・・・
ドクター・シャーリーは、いかなる差別や不公平な扱いを受けても、決して取り乱さず、品位を保ち続けました。彼は「暴力は負けだ。品位を保つことが勝利をもたらす」と言いこの信念を貫きました。
この映画は、単なる1960年代のアメリカ南部の物語ではなく、現代の私たちにも多くの教訓を提供しています。多様性と共存の重要性を再認識させ、固定観念に縛られることなく、生きることの大切さを教えてくれます。映画『グリーンブック』は、感動的で深いメッセージを持つ作品であり、私たちに共感と生きる希望をもたらします。
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