大切な人が病を抱えたとき、家族としてどのように寄り添うべきか、多くの方が悩まれることでしょう。病状や余命を伝えるかどうか、その選択は非常に難しいものです。がんで夫を亡くした70代女性が、夫が絶望感から無気力になると考え余命宣告をしなかったが、夫に余命を知る権利があったことを後で知り後悔しているという記事がありました。
もしご家族が、患者に知らせずに治療を進めたとしても、それが最善の選択であれば、後悔する必要は無いと思います。患者にとっての安らぎや穏やかな日々を守ることは、家族にしかできない大切な役割だからです。
患者が余命を知りたいと望むかどうか、それは人それぞれです。治療に前向きで、病と向き合う覚悟がある場合には、告知は必要な場面もあるかもしれません。しかし、回復が見込めない状況であれば、病名や余命を告げることで、患者が絶望に陥る可能性も考えられます。
時には、患者のために「治るから頑張ろう」「家に帰れるよ」といった希望を伝えることが嘘であっても、心の支えになることもあるのです。これを「嘘も方便」と捉え、患者の心を穏やかに保つための選択として評価できます。看病する家族が明るく接することは、患者にとって何よりの支えになるでしょう。
たとえ病状が悪化しても、家族の笑顔や朗らかな態度は患者に安らぎを与えるものです。そのためには、家族自身が覚悟を持つことが必要です。医師が「手を尽くした」と言った後の時間を、家族と患者が心穏やかに過ごすことができれば、それはかけがえのない時間となります。
家族が患者の最期を看取った後に、「あの時、余命を伝えるべきだったのではないか」と後悔の念が生じることがあるかもしれません。しかし、その選択が患者にとって最善のものであったなら、自分を責める必要はありません。家族として、患者を精一杯支え、看病し、最期までそばにいたこと自体が大きな愛の形です。嘘も方便という言葉があります。真実を伝えることが必ずしも良い結果を生むとは限りません。状況によっては、その嘘が患者にとって宝のような支えとなることもあります。浪曲広沢虎造の『石松金毘羅代参』の一説にも
「石、お釈迦様がなんと言った？
本当のことをしゃべったために、人がとんだ災難に遭った。
そういう本当は役には立たない。
そういう時には嘘をつけ。
嘘は方便。ところによると宝になる。
お釈迦様のついた嘘は『方便』といって宝になった。」
「方便としての嘘」が語られています。愛する人のために、どのように寄り添うかを考え、行動した家族の選択を誇りに思ってください。大切なのは、家族自身が最善の選択をしたと信じ、これからの人生を全うすることです。患者との時間を思い返したときに、あなたの選択はきっと誇れるものだったと感じられるはずです。
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