近年、人生100年時代と呼ばれるようになり、高齢期の生き方は誰にとっても関心の深いテーマとなっています。ある80代男性は、健康にも恵まれ、仕事やボランティアを続け、家族との時間も大切にする充実した日々を送っています。しかし同年代や近隣の友人が亡くなるたびに弔いに訪れ、自分が元気であることに罪悪感を抱くようになったといいます。
遺族との会話で自分の健康が話題にのぼり、居心地の悪さを感じることもあるそうです。けれども、本来弔問とは故人を偲び、遺族にお悔やみを伝える場であり、長居をして世間話をする必要はありません。むしろお参りしていただくこと自体が遺族にとって感謝の対象であり、高齢で足を運んでくれたことは何よりの誠意です。ですから、罪悪感を抱く必要は全くなく、心からのお悔やみを述べたら速やかに席を辞することが自然なマナーといえるでしょう。
一方で、弔問は「命の有限さ」を自覚する機会にもなります。自分もいつかは同じ道をたどるのだと意識することは、今をどう生きるかを考える大切なきっかけとなります。若い世代であっても、人の死に直面したとき、「自分は残された時間をどう使うのか」と振り返る瞬間があります。働き盛りの世代には日常の忙しさに追われながらも、親や祖父母を見送るときに人生の意味を問い直すことがあります。そして若者にとっても、身近な人の死は「限りある命」の現実を知る最初の体験となるでしょう。
人生は誰にとっても有限です。その認識があるからこそ、健康に恵まれた時間をどう使うかが重要になります。仕事や社会活動に積極的に関わることは、自分自身の生きがいを支えるだけでなく、後の世代に「年を重ねても社会に貢献できる」という希望の姿を示すことになります。弔問の場で一時的に話題となる健康状態も、実は長寿社会を生きる上での貴重なメッセージなのです。
つまり、弔問は礼儀や義務としての行為にとどまらず、残された者一人ひとりが自分の生き方を考える契機でもあります。悲しみを分かち合い、故人を偲ぶと同時に、「今をどう生きるか」を問い直す時間にしていくこと。それが世代を超えて、より豊かな人生を築く知恵につながるのではないでしょうか。
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