同居している長女に自立してほしいと願う自営業の50代母親の投稿を読みました。20代後半の長女は大学を卒業して就職したものの、コロナ禍を機に家に戻り1年以上定職につけていません。ハンドメイドの店も上手くいかず、家業を手伝いながら求職活動を続けています。親子の関係はいたって良好ではあるものの、定職につかない娘とどう接したらいいか悩んでいるようです。
長女へ、手紙を書いてみてはどうでしょうか。
あなたが生まれた日のことを、今でも昨日のことのように覚えています。あの日、私たちはあなたの将来をどれほど楽しみにしていたことでしょう。けれども、その「将来」は、いつまでも親の庇護の中で続くものではありません。
「いつまでもあると思うな、親と金」、これは決して冷たい言葉ではありません。むしろ、あなたの人生を支える最も温かい教えでもあります。親はいつまでも元気ではいられません。いずれ私たちがいなくなったあと、あなたが生活のすべてを自分でまかなえるよう、今のうちから力をつけてほしいのです。
たとえば、木の枝にとまる小鳥は、枝を信じているのではなく、自分の羽を信じているといいます。あなたも同じです。実家という枝は、いつか折れる時がきます。大切なのは、羽ばたく力を今のうちに鍛えておくことです。
また、人生は川の流れのようなものです。親の川から娘の川へと流れが移る時期が必ず訪れます。上流から流れてくる水(支援)は永遠には続きません。あなた自身が水源を持ち、自分の川を潤す時が来ているのです。
働くことには、単にお金を得る以上の意味があります。社会とつながり、誰かの役に立ち、自分の存在価値を確かめる行為です。アルバイトでも構いません。自分の手で得た収入から国民年金を納めることは、「未来の自分を守る保険」をかける行為です。いま支払うお金が、数十年後のあなたを支える力になるのです。
私たちも、あなたを心配していないわけではありません。むしろ、できるだけ長く支えてあげたい。でも、人は誰しも老い、体力も気力も衰えます。親が先に逝くのが自然の摂理です。あなたが自分の足で立てる力をつけてこそ、私たちは安心して人生を終えられるのです。
「家業を手伝っているから十分」と思うかもしれませんが、それだけでは社会の荒波を乗り切る経験が得られません。あなたの力で外の世界に挑戦し、喜びも失敗もすべて自分の糧にしてほしいのです。
親の愛情は、あなたの背中を押す風のようなもの。いつまでも押し続けることはできません。けれど、その風を感じ取って、一歩を踏み出す勇気を持ってほしい。
どうか覚えておいてください。
自立とは、親を遠ざけることではなく、親の愛を受け継いで、自分の人生をしっかり歩むことなのです。
読売新聞[人生案内]同居の長女自立してほしい2025年7月を参照
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