「最後まで看る」ことが本当に親孝行なのか

遠方で一人暮らしを続けていた96歳の母を、長男として施設への入所を勧めたが、母は強く拒否した。仕方なく自宅へ引き取り介護を続けたものの、想像を超える負担にストレスが募り、次第に母への言葉が荒くなった。気づけば言葉の暴力が日常化し、母の急逝と自身の対応を重ねてしまい、深い後悔と苦悩に苛まれている。妻は「いいかげん、飛び越えなさい」と70代の夫に助言するが、彼は幼少期に母から虐待を受けた過去があり、その記憶と介護の現実が交錯し、さらに苦しむこととなった。

96歳の母は健康であり、自分の意思で一人暮らしを選んでいた。子どもとして心配する気持ちは当然だが、施設への入所を強いる必要が本当にあったのか。デイサービスの利用など段階的な支援策は検討されたのか。自宅に引き取る決断が、母の自由を奪い、かえって双方にとって不幸を招いた可能性はないか。子どもが親を守りたい一心で下した判断が、結果的に親の尊厳や自分自身の精神的負担を損ねたのではないか。

介護未経験の70代が、96歳の母を自宅で介護することには大きな無理があった。親を最後まで看取ることは理想的かもしれないが、親自身が頼るまで待つ度量も必要だったのではないか。介護は義務感ではなく、状況に応じた柔軟な対応が求められる。子どもが親を思う気持ちは尊いが、それが独りよがりになり、結果的に追い詰められてしまうならば、本当に必要なのは介護の方法を見直すことなのかもしれない。