2019年12月8日日経朝刊、出光興産会長の月岡隆さんのインタビュー記事から。1984年北海油田開発でロンドンに駐在した時に買った「開いたことのない傘」―それは出光興産会長・月岡隆さんが1984年にロンドンで購入し、以来会長室に置いているものです。
イギリスでは紳士が晴れの日でも傘を携える習慣があります。この習慣は、雨が降るかもしれないという備えを象徴するものであり、傘そのものもまた多くの意味を持ちます。農具や武器、権力の象徴、男の誇り、統率の象徴、宗教的な道具、さらには指揮棒に至るまで、傘には様々な役割が与えられてきました。
月岡隆さんにとって、この「開いたことのない傘」は、仕事の中で「晴れの日」もあれば「雨の日」もあるという人生観を表すものでした。つまり、慎重さと備えの象徴なのです。「いつか雨が降るかもしれない」と思いながらも、実際にその傘を開くことなく、いつも傍らに置いておく。これこそが彼の仕事に対する姿勢を物語っています。準備はしているが、過度に心配せず、今を生きるという信念。傘が開かれないままの理由には月岡さんの心の強さと、その準備を無駄にしないための冷静さが伺えます。
彼にとって、この傘は単なる道具ではなく、時折、物事に備える必要性を感じつつも、冷静さと慎重さを持って仕事に臨むための象徴であり、彼自身の心の支えでもあったのです。人生においても仕事においても、「雨が降る」瞬間に備えつつ、晴れ間を大切にしながら進んでいく―それが月岡隆さんの信条であり、傘が示す人生哲学だったのです。
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