妻は、「もっと近づいてー!」と、椅子に座ろうとする義母に声をかける。
92歳の義母は、どッかと座ってしまうと一人で動くことは出来ない。
妻は、義母が座ったままの状態で、椅子の背もたれを持って、
テーブルに押し込もうとする。
義母は、突然「ヒザ、痛ッ!」と、悲鳴を発する。
妻は、その叫びにひるむことなく、じわじわとテーブルに押し込んでいく。
高齢者は前かがみになることが多い。
背筋が弱ってきているせいで、テーブルと距離を置くのかも知れない。
義母もまた、身体とテーブルとのすき間が大きい。
そのため、食べ物をテーブルにこぼし、床にも落とす。
従って、妻はそれを阻止するため、身体をテーブルに近付けようとする。
妻は、「痛ッ!」という悲鳴にもたじろがず、整然と着実に目的を達する。
もしも、知らない人が見たら、虐待と思うかも知れないが・・・
義母の「ヒザ、痛ッ!」は、
面倒なことや、厄介なことへの拒絶であり「取り繕い」だと思いながらも、
階段を上がってくるスピードを、毎回指を折って数えることで、
ヒアルロン酸の関節注射を止めて何年にもなるが、
場合によっては、医者に行くサインかも知れないとも思っている。
義母が、階段の5段目に近付くと、人感センサーが動体をキャッチし、
2階のリビングのチャイムが鳴り、義母の接近を知らせる。
それで、残り8段を、幾つで上がってくるか?数えている。
チャイムは、小さくすると聞こえず、大きくするとうるさい。
誰が通っても鳴るのが厄介だが、大変便利で久々のヒット商品だ。
義母は、ターゲットを設定すると、脇目も降らず行動する。
そのため気付くと、「す~~っ」と、そばに立っていることがある。
1階の自分の部屋に居るはずが、突然2階にいる。
その都度、妻も私も「ドキッ!」と何度も心臓が止まった。
そもそも、義母は誰にも干渉されず、気ままに生きる気質と知りつつも、
人感センサーのお陰で、夫婦とも心臓が止まることは無くなった。
そんな自衛策が指を折って数える、義母の身体測定にも繋がった。
階段は、ふだん11秒前後で上がってくる。
数え終わると、「今日も、大丈夫!」と業務は終了する。
また、二言目に「ひざが痛い」という診断にも役立っている。
それでも、「痛い」が、取り繕いであっても、心中穏やかでは無い。
今では、階段を上がってくるスピードは、
健康寿命のバロメーターだと解釈しているが、義母に限らず、
「日々の行動を何か一つ数値化し見続ける」ことはいいことだと思った。
一方「ヒザ、痛ッ!」は、夫婦と義母の適度な距離感が大事だとも思った。
とは言え、適度な距離感ほど難しいものは無い!というのも現実のようだ😁
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