調剤薬局の待合室で事件が起きました。
二言三言のやりとりの末、患者は怒って出て行きました。
待合室に居る私は、クレーマーかも知れない?と思いつつ
無関心を装い興味津々で聞き入ってました。
耳をそば立て、薬剤師と患者の会話を聞きながら
薬剤師の説明、下手だなぁーと思いながら・・
イヤーー、ヘタと言うより、型通りの説明では・・?
薬剤師は、一生懸命でしたが、自分の都合ばかりで
患者の説得は無理だろうなぁーと思いましたが
案の定、患者は怒って帰ってしまいました。
患 者:処方箋を「お願いします」と言って受付に出しました。
薬剤師:処方箋を見るなり「すみませんが処方箋の中身について
先生に聞く必要がありますのでしばらくお待ちください」
患 者:「医者に聞かなくていいから早くー!」
薬剤師:「服用回数が多いので・・チョット聞かないといけないので」
患 者:「そんなのーどうでもいいから。 早くしてよー」
「車、駐禁で捕まるからー」
薬剤師:「そう言われても、先生に聞かないと調剤出来ないんです」
患 者:「駐禁、捕まったら払ってくれるのー」
薬剤師:「ルールなので先生に聞くしかないんです」
患 者:「何が先生だよ。アンタだって先生だろう。もういい。 帰る!!」
僅か数分の会話に、薬剤師は戸惑いながら、
同僚に視線を向けつつも、何のアドバイスも無いようで
薬剤師はなす術もなく患者を帰らせてしまいました。
薬事法で定められた文書、添付文書(てんぷぶんしょ)に
1日1回の服用と記載されている場合、
原則その内容は守らなければなりません。
仮に、処方箋に1日2回服用と医師の指示があった場合は
薬剤師は、医師に対し、医師の記入ミスなのか?
或いは、何か違う治療目的で服用回数を増やしたのか?
薬剤師は調剤する前に、医師に確認しなければなりません。
薬剤師法第24条「薬剤師は処方せん中に疑わしい点があるときは、
その処方せんを交付した医師・歯科医師又は獣医師に問い合わせて、
その疑わしい点を確かめたあとでなければ調剤してはならない。」とあります。
処方せん中に疑わしいところがある場合、薬剤師は医師に
疑義照会(ぎぎしょうかい)しなければならないと法律で決まっています。
薬剤師の重要な役割の一つに薬剤に関するチェック機能があります。
薬剤師法第24条は、薬剤師の義務規定であり、
これに違反すると50万円以下の罰金に科せられます。
チェック機能に関連して罰金刑を定めているのは薬剤師法だけです。
処方箋をみて変だと思ったら、何のためらいもなく、
疑義照会するのは、薬剤師の当然の業務です。
万が一、薬剤師が医師に疑義紹介しないまま、
添付文書記載の用法・用量と違った処方や調剤を行った場合、
「不適正な使用」となり、医薬品副作用被害救済制度、
国が行っている救済の対象にならない可能性があります。
万が一、患者が重篤な副作用に見舞われた場合、
患者を救済しようとする国の制度を妨げてはなりません。
私がその薬剤師だったら
❶病気を治す薬は、時には重大な副作用を起こすことがあります。
❷重篤な副作用が原因で入院した場合に患者さんを国が救済する制度があります。
❸法律で定められた服用量、服用回数を守らないと救済を受けられないことがあります。
❹忙しいと思いますが貴方の為です。
❺そのため、今しばらくお待ちください。
患者から、どういう制度なんだ!と聞かれたら
独立行政法人医薬品医療機器総合機構から抜粋した(平成28年4月1日現在)
以下の7項目と金額を説明して下さい。
❶医療費:自己負担分
❷医療手当:月額34,300円~36,300円
❸障害年金:年額2,205,600円~2,756,400円
❹障害児養育年金:年額690,000円~861,600円
❺遺族年金:年額2,410,800円
❻遺族一時金:7,232,400円
❼葬祭料:206,000円
薬剤師は薬の専門家として、薬を服用している患者の健康状態を
医師同様最新の注意を払わなければなりません。
従って、医師の処方に何の義務も持たず調剤した結果
医師と薬剤師が、共同不法行為に問われることにもなります。
まさに薬剤師は患者にとって、安心安全の最後の砦です。
患者を救う使命感がもっと強ければ、
もっと強い意志で患者を説得できたのではないかと思いました。
目次
以下、薬剤師と医師の共同不法行為の判例です。
ご参照下さい。
千葉地方裁判所 平成12年9月12日判決(判例時報1746号115頁)
(争点)処方が適切であったか、処方と症状との因果関係、医師・薬剤師の過失
(事案)
患者A(生後4週間の新生児)は、平成7年10月16日午前11時ないし11時30分ころ、母親に帯同されてY産婦人科健康診断クリニック(Y医師が開設者)に赴き、Y医師の診察を受けた。Y医師は、Aに対し、院外処方せんを交付する方法により、マレイン酸クロルフェニラミンを含有するレクリカシロップ、リン酸ジヒドロコデイン等を成分とするフスコデシロップ等の薬剤を処方した。その際、Y医師は、風邪等に罹患した乳幼児は、ミルクの飲みが悪いので薬剤も必要量を服用しないことが多く、Aがひどい咳をしていたことを理由に能書記載の用量よりも多めに処方をした。
S薬局(Sが管理薬剤師で開設者)のS薬剤師は、処方に従い飲み薬を調剤してAに提供した。
Aの母親は、本件飲み薬を、少なくとも10月16日昼の授乳後に1回、翌17日午前10時過ぎないし11時ころの授乳後に1回、Aに1目盛分ずつ飲ませた。
その後、Aの両親は、Aの呼吸困難、チアノーゼ状態に気づいたため、午後2時ないし2時30分ころ、AをYクリニックに運び込み、Y医師は、Aに対し、酸素吸入の措置を行った。その後、Aの父親は、Y医師の指示により、AをK病院に搬送し、Aは再び酸素吸入等の措置を受けて入院し(以下「本件入院」という。)、10月24日に退院した。
Aは、その後、入通院を繰り返した。その入院日数の合計は本件入院を合わせて219日、実通院日数の合計はのべ59日である。
(損害賠償請求額)
合計575万8388円(内訳:治療費172万5748円+文書料等5万7640円+入通院慰謝料300万円+弁護士費用97万5000円)
(判決による請求認容額)
合計71万4494円(内訳:入院費用7万9824円+治療費1320円+K病院に関する弁護士照会分5000円+K病院の照会回答費用2万8350円+入通院慰謝料40万円+弁護士費用20万円)
(裁判所の判断)
処方が適切であったか 裁判所は、まず、マレイン酸クロルフェニラミンの本件飲み薬中の含有量は、Aにとっては1日量で見ると常用量の3倍ないし3.75倍、1回量で見ると常用量の4倍ないし5倍の処方となり、リン酸ジヒドロコデインの本件飲み薬中の含有量は、Aにとっては、常用量の2.4倍ないし3倍の処方となると認定しました。
そして、Aが10月16日当時生後4週間の新生児であったことに照らすと、本件飲み薬中の本件成分の含有量は常用量を大幅に上回るもので明らかに過剰であり、不適切な処方であったと判示しました。 処方と症状との因果関係 マレイン酸クロルフェニラミンには呼吸困難、チアノーゼという副作用を引き起こす可能性があり、リン酸ジヒドロコデインには呼吸抑制の副作用を引き起こす可能性があること、Aが本件飲み薬を服用して数時間で発症ないし発見されていること、本件処方が本件成分の常用量を大きく上回った過剰なものであったこと等から、原告が本件飲み薬を服用したことによって中枢性呼吸抑制が生じ、呼吸困難、チアノーゼ状態となった可能性が高いと認められると判示しました。 医師・薬剤師の過失 裁判所は、次の理由を挙げて、漫然と常用量を大幅に上回る本件処方・調剤をしたという不法行為によってAに本件症状を生ぜしめたことにつき、Y医師とS薬剤師に過失があったと判断しました。
(1)本件薬剤についてY医師・S薬剤師が能書の記載から認識すべき本件成分の含有量の過剰性や本件成分の相互作用増強防止のための薬剤量減量の必要性に対するY医師・S薬剤師の認識の甘さ
(2)Aが生後4週間の新生児であることに対するY医師・S薬剤師の配慮の欠如
(3)Y医師においては、一般に風邪等に罹患した乳幼児はミルクの飲みが悪いと決めつけて個別的な症状を考慮せずに、患児のミルク摂取量という偶然性にかからせた薬剤処方をしたこと、S薬剤師においては、薬剤の専門家として右の処方に何の疑問も感じずにこれに従い調剤したことにつきそれぞれ落ち度がある。
その上で、S薬剤師がY医師による本件処方に従って本件調剤をしたこと及びY医師は、S薬剤師に対し、体調の悪い乳児はミルクを全部飲まないので通常の服用量よりも多めに処方を行うため、処方どおり薬剤を調剤するよう指示し、S薬剤師はこれを了解していたことから、Y医師の本件処方とS薬剤師の本件調剤との間には客観的な関連共同性のみならず主観的な関連共同性さえ存在するということができるから、両名の行為が共同不法行為を構成することは明らかであると判示しました。そして、本件入院及び本件入院と同一症状・疾病でK病院に3日通院した際の治療費等を両名の過失と相当因果関係にある損害として、Aの損害賠償請求を一部認めました。
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