便失禁と便秘、原因と治療の最前線

 

はじめに

便失禁と便秘は表裏一体の関係にあると言われます。一方が良くなると一方が悪くなる傾向があります。

家族や介護職員にとって、便失禁だけでも無くなれば、どれだけ精神的・肉体的負担が軽減するか計り知れないと言います。

しかし、実際におむつの中で、軟らかい生暖かい便がお尻から背中やからだの前まで染みわたってきて、遂には布団のすき間から強烈な悪臭が本人を襲います。

恥ずかしさ、不甲斐なさ、人間としての自尊心や尊厳は一瞬にして切り裂かれてしまいます。その絶望感は便失禁した本人にしかわかりません。

高齢化社会が進む中で、自分も他人事ではないとの思いから、便失禁ガイドライン2017年版を参考にブログにしました。便失禁を正しく理解するために、またいち早く正しい治療を受けられるように最新情報を取りまとめました。

信頼できる医師にめぐり合い、ご本人や家族が普通の日常生活を取り戻す切っ掛けになって欲しいと思います。

 

便秘とは、便が出にくい、便が出ない

 

便とは:

子供の頃は「うんこ・うんこ」と友達のように叫んでいましたが、大人になるにつれ、うんこは恥ずかしいもの、人から不快に思われ対象になりました。一方「腸内フローラ」のようにきれいに言われると心が和んだりしますが、それでも、恥ずかしくて相談できない、どこに相談していいか分からない、など悩みを抱える人は多いように思います。

 

排便のしくみとは

食物は、胃液や膵液などの消化液によって分解され、小腸に到達すると栄養分が生体内に吸収されその残りが便となります。
次に大腸では、水分が吸収され腸内細菌で埋め尽くされている環境を便が通り抜け、最終的に残った内容物と腸内細菌が便となっていきます。
便が直腸内に到達すると、直腸壁内圧が亢進し、それが大脳に伝わり肛門括約筋が弛緩し、排便反射が起こり、脳が便意を感じ取り自然ないきみが生じ排便が成立します。

排便の仕組みは、中枢神経、末梢神経、結腸壁内神経叢、腸管運動、心因的要素などが複雑に絡み合っています。普段は、便は下行結腸からS状結腸に主に貯まっています。
   
茨城県の川﨑胃腸科肛門科病院ホームページから引用

 

直腸から肛門に移行する部分は、恥骨直腸筋により前方へ引き寄せられて、ある一定の角度をもち(直腸肛門角)、便が肛門へ簡単に移動できなくなっています。肛門部は内肛門括約筋、外肛門括約筋の力で閉じています。

   
茨城県の川﨑胃腸科肛門科病院ホームページから引用

 

朝起きて食事をとると、起立反射、胃結腸反射が働いて便が直腸に送られます。 直腸が膨らむと更に便意を感じますが、排便の準備ができるまで、意識的に排便に対して抑制が働き、肛門はまだ閉じた状態で便が漏れないようにしています。


茨城県の川﨑胃腸科肛門科病院ホームページから引用

 

便秘の原因とは:

高齢者の便秘は、年を重ねるにしたがって、腸内の善玉菌が減り、腸内環境が変化し腸管の蠕動運動が低下することが原因とされています。

また年を取るにつれ、食事の量や飲む水の量も減り運動量も少なくなります。結果として、腸管の動きは活発に動かず便秘に陥りやすくなっていきます。気持ち良い排便が出来ないと食欲も衰え頑固な便秘へと悪循環に陥ってしまいます。

 

一般的な排便回数とは:

排便回数は1週間に3回~1日3回と個人差が大きいです。高齢者の中には、排便が1日1回から2日に1回に減っただけで便秘になったと思い込み下剤を服用する人もいます。また、毎日3、4回排便する人の中には、便が硬く常に残便感があり便秘のケースもありますが、軟便ではないかと思い込み、止瀉薬を飲み便秘を悪化させてしまうケースもあります。

 

便秘の発症とは:

自律神経が深く関与しています。認知症やパーキンソン病などの精神神経系疾患や慢性腎臓病の患者などでは発症率が高いことが知られています。また、大腸癌など消化器系疾患や、腰部脊柱管狭窄症など便秘を引き起こします。これらの疾患にストレスが加わり便秘を悪化させることにもなります。
また、医薬品の副作用で腸管の動きが鈍くなり麻痺性イレウスを発症することもあります。
さらに、フェノチアジン系抗精神病薬、ブチロフェノン系抗精神病薬、パーキンソン病治療薬、三環系・四環系抗うつ薬、オピオイド受容体作用薬、制酸薬、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂なども便秘を引き起こすことがあります。

 

便秘の治療薬とは:

1.機械的下剤

(1)塩類下剤 

代表的な薬剤が酸化マグネシウムです。使用頻度は極めて高い薬剤です。同剤は習慣性がなく、安全性が高いとされますが、高齢者の患者は便秘が改善しないと自己の判断で多めに薬を飲む傾向がありますが、倦怠感、嘔吐、徐脈、筋力低下、不整脈、呼吸困難、意識混濁など様々な副作用を誘引する恐れがありますので、薬剤師の服薬指導を守らなければなりません。

(2)膨張性下剤

 腸管内で水分を吸収し、便内容を増加させ、腸の蠕動運動を亢進させます。習慣性はほとんどありませんが作用が緩徐であるため、他剤併用で処方されるケースが多い薬剤です。カルメロースナトリウム(カルメロースナトリウム、バルコーゼ)などがあります。

2.刺激性下剤

(1)大腸刺激性下剤 

 アントラキノン系誘導体(センナ・ダイオウなど)は、小腸より吸収され腸の蠕動運動を亢進させます。作用は強力で習慣性があると言われており、麻子仁丸、大黄甘草湯などの漢方薬も同様の作用を示します。ジフェノール系誘導体(ピコスルファートナトリウム)は、大腸粘膜を刺激して作用を発揮します。

(2)小腸刺激性下剤

 ヒマシ油の加水分解物が小腸粘膜に直接作用し、腸の蠕動運動を亢進させる。

 

 

便失禁とは?

便失禁は便がもれることの症状名です。無意識に、または自分の意思に反して便が漏れる症状をいいます。軟らかい便や固形便だけでなく、少量の便汁(べんじゅう)が出てしまうこともあり、普通の日常生活を送っている人でも、便失禁を起こす可能性があります。

便失禁は「不安の症状」と言われ、治療で完治しても便失禁の不安が解消されず、憂うつな精神状態が日常生活に悪影響を及ぼすと言われています。

 

便失禁の有症率は男性8.7%、女性6.6%

便失禁患者のこれまでの推定有症率の報告は2.2~25%と大きく異なっていました。
国内の65歳以上の健康な男女1405人を対象として1997年に行われた訪問面接調査において有症率は男性8.7%、女性6.6%でした。これを基に推計すると、便失禁の潜在患者数はおよそ500万人と推定されています。
藤田保健衛生大学病院 国際医療センター長・病院特任教授 前田 耕太郎
便失禁ガイドライン2017年版より引用

 

便失禁の発症リスク因子は高齢者とBMI30を超える肥満

便失禁ガイドライン2017年版より引用

糖尿病患者は便失禁発症の割合が高く、血統コントロールの程度と便失禁の程度が関係しているとの報告があります。また、過敏性腸症候群炎症性腸疾患の患者も便失禁の有症率が高いと報告されています。

糖尿病患者とは糖尿病三大合併症の一つの神経障害が、運動神経や知覚神経に影響して尿失禁や便失禁を発症させます。

過敏性腸症候群(IBSとは検査でも異常が認められず、腹痛や腹部膨満感などの症状に、下痢や便秘を慢性的に繰り返す状態をいいます。

炎症性腸疾患(IBD)とは潰瘍性大腸炎やクローン病があり、長期に下痢、血便が続く原因不明の難病です。

BMIとは「体重÷身長÷身長」で算出される体重・体格の指標「Body Mass Index」の略称です。

 

便失禁、医師が患者にする26の質問? 

便失禁ガイドライン2017年版より引用

日常排便習慣に対する質問とは?

1.患者にとって以前の排便はどうであったか?
2.それがいつから、どのように変わったか?
3.下剤などの内服薬、浣腸、洗腸、座薬などを使用しているか、いつからどの程度?
4.普段の便の性状(ブリストル便性状スケールとして記載)は?
5.排便時に過度にいきむか、いきむとしたらどのくらいの時間?6.便とガスを区別できるか、液状便と固形便の識別ができるか?7.排便前に腹痛や腹部の膨満感を感じるか?
8.排便に指や手を用いた補助が必要か?
9.排便後きれいにふき取れるか?
10.日常生活の活動性

便失禁に焦点をおいた質問とは?

11.もれることを自覚できるか、意識的に我慢できない便失禁か?12.もれるのはガスか粘液か、液状便か、固形便か?その頻度は?
13.排便を我慢できるか、だとすればどのくらいの時間可能か?14.排ガスを我慢できるか、だとすればどのくらいの時間可能か?15.最初の便失禁はいつ起こったか、それから時間的にどう変わってきたか?
16.どの程度の量がもれるか、その性状は?
17.失禁を引き起こすきっかけはあるか?
18.睡眠中に便がもれるか?
19.もれは排便後に起こるか?
20.通常の日常生活に影響があるか、どのような支障があるか、その頻度は?
21.パッドなどの衛生用品を使用するか、その頻度は?

便失禁に関わる日常生活についての質問とは?

22.食事内容と嗜好品(コーヒー・アルコールなど)の摂取状況23.喫煙歴、体重の変化(BMI)
24.下剤や向精神薬を含めた内服薬
25.日常生活状態(起床、食事と排便、入眠時間など)
26.トイレを含めた生活環境(温水洗浄便座による排便前後の洗浄の有無など)

 

便失禁3つの種類とは

便失禁ガイドライン2017年版より引用

切迫性便失禁(せっぱくせいべんしっきん)とは

便意を我慢できずに漏れてしまう状態をいいます。要因としては、外肛門括約筋の損傷解説1、機能の低下、直腸に便をためておく機能の低下、下痢などによる便の性状の変化、心理的要因などが考えられます。

漏出性便失禁(ろうしゅつせいべんしっきん)とは

便意を感じることなく漏れてしまう状態をいいます。要因としては、内肛門括約筋の損傷解説2、機能の低下、骨盤内臓神経の損傷解説3、機能の低下、直腸肛門感覚の低下などが考えられます。

混合性便失禁(こんごうせいべんしっきん)とは

漏出性と切迫性の両方がある状態をいいます。便失禁には複数の要因が関わっていることが多く、漏出性または切迫性であると明確に区別できないケースも少なくありません。

解説1外肛門括約筋とは、

骨格の可動部分で働く手や足の筋肉と同じ横紋筋という随意筋で、自分の意志で動かすことが出来る筋肉を言います。
内肛門括約筋は普段、肛門を閉じていますが、肛門の近くまで便が降りてくると筋肉が緩んでしまいますが、「便意」を感じると便がもれないように、外肛門括約筋を締めることができます。このように肛門の締まりは平滑筋と横紋筋の協調作業でコントロールされています。

解説2内肛門括約筋とは

肛門は、内側の内肛門括約筋と外側の外肛門括約筋の2種類の筋肉からできており、内肛門括約筋は腸の筋肉の一部で、平滑筋という不随意筋で、自分の意志で動かすことが出来ない筋肉を言います。

 

解説3骨盤内臓神経とは

副交感神経として、泌尿器で排尿神経,生殖器で勃起神経,消化器で排便神経として知られる内臓の自律神経系の名称です。一方、交感神経の下腹神経の作用として、泌尿器で内尿道括約筋の収縮作用、生殖器で順行性射精、消化器で内肛門括約筋の収縮作用があります。便の漏れ方以外にも、漏れる便が液体か固体かといった便性状を確認することが大事です。

 

ブリストル便性状スケールとは

便失禁ガイドライン2017年版より引用

タイプ4が普通便で数字が大きいものほど水様便になります。便失禁患者の多くはタイプ6または7ですが、タイプ1のような固い便が漏れる場合もあります。

 

便失禁の原因は患者ごとに様々な要因がある。

便失禁ガイドライン2017年版より引用

便失禁は複数の要因が重なり合って生じることが多くあります。また、原因が特定出来ない場合もあります。

加齢によって

不随意筋である内肛門括約筋や、深会陰横筋、尿道括約筋、肛門挙筋、尾骨筋の4つの骨盤底筋が衰えると漏出性の便失禁の原因となることがあります。

出産・分娩などによって

自然分娩であっても肛門括約筋や神経にダメージを受けたことで、便意を我慢する力が弱まり切迫性便失禁を起こすことがあります。また、出産時に受けたダメージが加齢とともに筋力の低下を招き中高年以降に便失禁を起こすこともあります。

肛門周囲の括約筋あるいは神経の損傷によって

分娩時の会陰損傷や、痔核・痔ろう・裂肛などの治療で内肛門括約筋の一部を切開した場合、直腸がんの手術で内肛門括約筋の一部を切除した場合、再発予防のため骨盤側壁のリンパ節郭清や放射線治療を行なった場合、術後後遺症として一定の割合で便失禁がみられることがあります。

過敏性腸症候群(IBSによるもの、

下痢と便秘を繰り返し直腸が過敏になって、過剰な便意をもよおすため、トイレまで我慢できず切迫性便失禁の原因となることがあります。また、肛門の機能にまったく問題がない健康な人でも水様便の場合我慢することは出来ない場合があります。

糖尿病などによる、

末梢神経障害、糖尿病性神経障害は排便・排尿障害を引き起こす場合があります。また、自律神経が障害されると、内肛門括約筋の機能にも問題が起こる可能性があります。

❻心理的や生活環境の要因による、

過度のストレス、精神的・心理的な負担によって切迫性便失禁を起こす方は少なくありません。若い人ではその割合がより高いといえます。また、家庭や職場のトイレ環境(利用者が多くトイレが少ない、トイレが汚い)などが便失禁の原因として考えられます。

❼特発性便失禁とは、

原因が特定出来ない便失禁でその多くが高齢者です。何らかの原因による内外肛門括約筋の機能低下、肛門上皮の感覚低下、直腸感覚の低下などが病態に関与していると言われています。

 

便失禁の検査とは?

便失禁ガイドライン2017年版より引用

❶問診・視診:

肛門周囲の皮膚炎などを目で見て判断します。

❷直腸肛門指診:

指を肛門に入れて異常の有無や括約筋の強さを判断します。

❸直腸肛門内圧検査および直腸肛門感覚検査:

直腸や肛門の筋肉の機能や感覚を数値的に評価する検査です。肛門括約筋や骨盤底筋群など、排便にかかわる筋肉の状態を検査します。
筋肉が緩まないと排便できず、筋力が低下していると便やガスが漏れてしまいます。また、直腸の感覚が鈍くなると便がたまっていることを自覚できません。逆に過敏になると排便回数が多くなり便が漏れることになります。

❹肛門管超音波検査:

肛門括約筋の損傷を客観的に評価できる検査です。

❺骨盤部MRI検査:

肛門括約筋の厚みの減少或いは脂肪組織への置き換わりを萎縮として評価できる検査です。

❻排便造影検査:

直腸内に造影剤と擬似便を注入してレントゲン撮影し、実際の漏れ具合や排便時の動きを観察します。直腸の形態的な動き、肛門括約筋の運動不全、直腸瘤、小腸瘤、直腸重積(腸管壁がたるんで出口を塞いでいないか?)

 

便失禁の保存的療法とは?

便失禁ガイドライン2017年版より引用

保存的療法とは、切除手術など外科的な治療は行わず、投薬などの内科的治療によって患者自身の治癒力を期待し行う治療法です。

(1)食事の制限、排便習慣の改善、看護師による指導

★便の性状を軟化させるカフェインや柑橘類の果物、刺激物など香辛料の多い食品、アルコールの摂取を控えるなど、またオオバコなどの食物繊維サプリメントが便の性状を改善し便失禁を減らすRCTがあります。

 RCTとはランダム化比較試験のことで、臨床試験で被験者を無作為(ランダム)に処置群(治験薬群)と比較対照群(有効成分を含まない偽薬)に割り振り客観的に評価する試験方法です。

★排便の生活習慣を見直し、便意がなくても決まった時間にトイレに行くことは重要なことです。

★直腸の感覚が正常な場合は、便意を感じたら我慢しないで直ぐにトイレに行くことが大切です。

★直腸感覚が低下している場合は、便意がなくても排便を計画的に試みることで便失禁を改善出来ます。

★脊髄障害や高齢者の場合、直腸感覚低下のために直腸に便があっても便意を感じずに便が直腸に貯まると漏出性の便失禁が生じることがあり1日2回(朝・夕食の約30分後)便意がなくてもトイレに行ってお腹に適度な力をかけ排便習慣を訓練づけることが有効だとしています

★看護師による教育指導やアドバイスは介護者にとっても効果的手段です。便失禁による皮膚の炎症やびらんなど、弱酸性の洗浄剤と皮膚被膜材による保湿やスキンケアも有益な方法です。

 

(2)薬物療法

整腸剤で腸の運動を整え、浣腸・洗腸・座薬など下剤で直腸を空っぽにすることも有効です。

ポリカルボフィルカルシウム(商品名:コロネル®、ポリフル®)、下痢と便秘を繰り返す過敏性腸症候群(IBS)に用いられる薬です。下痢の時は過剰な水分を吸収して、また便秘の時は腸内で水分を保持し便の性状を整えます。切迫性便失禁の場合、肛門側の機能に問題がないので薬の効果によって便の性状が安定し排便が正常化していきます。

トリメブチンマレイン酸塩(商品名:セレキノン®)、ストレスなどで胃腸が過敏になり異常が生じたとき、その動きを正常化する薬です。過敏性腸症候群に効果があります。服用のための起床が、排便を済ませてから出勤するという生活習慣の改善に繫がり治療効果が得られます。

ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミン®)腸の運動を強力に抑え腸管での水分の吸収を増やし強い下痢止め効果を発揮します。長期間使用すると便秘になることがあります。ときに、発疹やかゆみ、アナフィラキシー様症状、腹部膨満感、吐き気、腹痛、のどの渇き、めまい、皮膚粘膜眼症候群、頭痛、尿閉などをおこすこともあります。アメリカ食品医薬品局(FDA)は2016年6月重篤な不整脈の副作用を警告しています。

 

(3)骨盤底筋訓練 理学療法

骨盤の中で内臓を支えている骨盤底筋(こつばんていきん)の筋力が低下すると、尿意や便意を我慢する力が弱まります。尿道・肛門・膣を締めたり緩めたりすることを繰り返し行います。衰えた筋力を向上させるには以下のような、骨盤底筋体操の継続的なトレーニングが必要です。腹筋を収縮しないように呼吸を続けたままの状態で、骨盤低筋を10秒収縮してから20秒休みます。この収縮を10回から20回繰り返し、それを1セットとし毎日3~5セット行います。治療者が患者の腹筋に手を置いて骨盤低筋収縮の際に腹筋に力を入れないよう指導することが大事です。治療者が患者の肛門に人差し指を挿入して、実際に骨盤低筋が収縮しているか確認が必要です。患者が体全体に力を入れて腹筋を収縮させ、その結果腹圧が上昇して排便の動作になっている場合があるからです。

(4)バイオフィードバック療法

意識にのぼらない生体情報を計測器によって、その情報を画像や音の形で自身が意識できるようにし、意識上にフィードバックし自身で制御できるようにするものです。

緊張の度合いを、血圧・心拍数・心電図・筋電図などを用い患者に伝え体感しながら、最終的には自分自身でコントロールできるようにする心理療法の中の自律的アプローチの治療法です。

表面筋電図検査とは

筋全体の活動電位を記録し、筋肉自体の異常か神経に由来するのかを調べる検査です。筋電図検査は、皮膚の表面に数mmの電極を2個置いて検査する表面導出法と、細い針を筋肉に刺して検査する針電極法がありますが、個々の筋肉の変化が判定できる針電極法が一般的です。刺す深さは検査部位によって違いますが痛みを伴い検査時間は20分から30分です。

肛門内圧検査とは、

「内括約筋」と「外括約筋」の肛門括約筋のしまり具合を計測します。この肛門内圧検査は、直径3mm程度のカテーテルを肛門に挿入し痛みはまったくなく検査は数分で終わります。肛門を締めるのに必要な力の入れ方を体で覚えます。最初は外来で行い後に持ち運びできる計測機器を使って自宅でトレーニングを行います。


茨城県の川﨑胃腸科肛門科病院ホームページから引用

 

(5)挿入型肛門用失禁装具

肛門に直接挿入して使う装具です。便失禁に伴う汚染の軽減、便失禁に伴う臭いの防止、腸内ガスの貯留防止で使います。交換目安が12時間、素材は多孔性ポリウレタン、水溶性フィルム(表面)の使用に際しては、必ず医師や看護師の専門家の指導を受けてから使用しなければなりません。

(6)逆行性洗腸法(灌注排便法,経肛門的洗腸法)

肛門から注入する洗浄液で大腸内を定期的に洗浄し、便をためないようにします。高度の便失禁や便秘の場合に、1~2日に1回、肛門から500~1500mlのぬるま湯で大腸内の便を洗い出す治療法です。朝、1時間ほどかけて行なうので、時間と手間がかかりますが、1時間かけて大腸内の便がなくなれば、あとの23時間は便失禁の心配がありません。

(7)脛骨神経刺激療法(TNS)

仙骨神経刺激療法と比較して低侵襲、低コストで有害事象も少ないが有効性は低く有用性はない。

(8)肛門管電気刺激療法

低侵襲、低コストで有害事象も少ないが有効性は低く有用性はない。

 

 

便失禁の外科的治療とは?

便失禁ガイドライン2017年版より引用

(1)肛門括約筋修復/形成術

部分的に損傷している括約筋を縫い縮める手術です。便失禁診療ガイドライン2017年版では、短期成績は良好であるが長期的には成績は悪化する。と報告しています。

 

(2)仙骨神経刺激療法(SNM)

心臓ペースメーカーのような形状・サイズの電気刺激装置を臀部(お尻のふくらみ)に植え込み、排便に関わる仙骨神経を電気的に刺激することで排便をコントロールします。

刺激装置を植え込む前に、体外から電気刺激を送って効果の有無をテストし、この試験刺激によって効果が確認された患者が刺激装置の植え込み手術を行います。

電気刺激によって、これらの神経の働きを本来の状態に戻すことで排便機能の正常化につなげます。

この手術は2014年から保険適応となっており、また高額療養費制度の対象となります。

現段階では、手術後、全身MRI検査を受けることができないという欠点があります。(頭部MRIのみ可)。今後近いうちにSNM装置でも実用化されると期待されます。
また、体内に植え込んだ装置の内蔵電池は5〜7年ごとに取り替えが必要ですが、ベッドパッドの下に敷いて使う非接触式の充電システムがすでにアメリカで開発されており、将来日本においても実用化されることが期待されます。

(3)順行性洗腸法(ACE)

逆行性洗腸法と同様に、洗腸に時間と手間がかかるため重症の排便障害が適応です。洗腸液の注入量が少なく洗腸に要する時間が短いことは長所ですが、手術や内視鏡を利用して盲腸と皮膚の連絡路をつくり、1~2日に1回、浣腸液を200ml程度注入して大腸内の便を洗い出す治療法です。


埼玉県の指扇病院ホームページより引用

 

(4)有茎薄筋移植術

足の筋肉を肛門の周囲に巻きつけて、肛門の筋肉(肛門括約筋)の代わりに肛門を締める手術です。手術手技の難易度が高く限られた専門施設で行う外科治療です。

(5)ストーマ(人口肛門)造設術

便失禁に対する外科治療の選択肢のひとつとして有用な治療法です。

(6)生体物質肛門注入術

欧米では便失禁に対する小数例での有効性の報告はあるものの肛門痛や潰瘍形成などの合併症の報告もあり日本では未承認の治療です。

(7)人口肛門括約筋(ABS)

北米での多施設共同研究で有効性が示されているが、感染などの合併症や機器の不具合など問題点が多い術式であり日本では未承認の治療です。

(8)磁気的肛門括約筋(MAS)

EU圏及び米国で承認され、小数例での有用性が示されている低侵襲な外科治療。長期的な成績や合併症は不明で日本では未承認の治療です。

(9)恥骨直腸スリング術

伸縮性ポリエステルメッシュを用いて、肛門管上縁を後方から恥骨へスリング状に牽引して直腸肛門角を鋭角化することにより便失禁を改善する手術ですが、未だ評価は定まっていません。

(10)Ventral rectopexy

直腸重積や直腸瘤が原因の便失禁に対して有用な治療ですが、多数例での評価は定まっていません。

 

特殊な病態の便失禁A.神経・脊髄疾患(損傷)

便失禁ガイドライン2017年版より引用

神経系または脊髄が障害されると、直腸肛門・骨盤底の感覚及び運動神経の障害をきたすことが多く、排便調節が困難になり便失禁または便秘の原因になります。

特殊な病態の便失禁B.認知症、フレイル・寝たきり高齢者

便失禁ガイドライン2017年版より引用

認知症の症状では

中核症状である記憶障害、見当識障害、失語、失行、失認と行動・心理症状の暴言・暴力、徘徊、脱抑制、便失禁などの行動症状と不安感、抑うつ、感情鈍麻、幻覚、妄想などの心理症状に大別されます。
行動・心理症状は中核症状から引き起こされる二次障害であり、これらの症状はなじみのない、居心地の悪い環境や介護者との関係で誘発されることがあります。便失禁や便を他の物と間違えたり、便器の中にある便をいじる行為などの発症誘引も同様です。

フレイルでは

脳卒中、認知症、糖尿病、糞便塞栓など、神経因性の便失禁が多く、移動の制限、視力障害なども便失禁に関係します。また、肛門の手術や分娩時の会陰損傷に伴う肛門括約筋の損傷の影響で晩年になって便失禁を起こすことがあります。その他、フレイルでよく見られれる会陰下垂、直腸瘤、直著重積、直腸脱も原因となります。

 

*フレイルとは、

加齢とともに運動機能や認知機能が低下、複数の慢性疾患を併せ持ち日常生活に支障をきたし、心身ともに繊細な神経で傷つきやすく、一度壊れると元にもどれない薄いガラス細工のような心になります。一方、介護等の手助けにより生活機能の改善が見込まれる健康な状態とサポートが必要な介護状態の中間を意味します。多くの人はフレイルを経て要介護状態へ進むと考えられており、特に高齢者はフレイルが発症しやすいと言われています。フレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切です。
日本大腸肛門病学会は国内初の『便失禁診療ガイドライン』より引用

 

最後に、

便失禁はQOLに悪影響を及ぼし自立を妨げ社会からも孤立させます。
便失禁の発生頻度は、自宅では10%近くで介護施設に入所すると50%になると言われています。
また、介護施設では便失禁に対する排便ケアや治療について必ずしも積極的ではないと言います。
果たしてそうでしょうか?
10年前、介護士の講演会において、便失禁がいかに人間性を破壊し自暴自棄にさせるか経験したものでなければ到底理解出来ない。
その為に、いかにその切なさを回避させることが出来るかが介護士としての使命だと。
介護施設において高齢者と介護士が一つ屋根の下で暮らすため、家族以上に強い信頼関係を構築しなければならない。その為には、先ず、高齢者に対して丁寧に謙虚にゆっくり時間をかけ、行儀よく礼節をわきまえ会話していくことが重要だと言っていました。
高齢者は自分のすべてを委ねる介護士を見定めるのは当然なことであり、高齢者から信頼を得ることが最初のアプローチだと言っていました。
食事中の水分量?食事の量?咀嚼回数?排尿の時間、回数、量?排便の時間、回数、量?など、食事のチェックリストと排泄チェックリストを介護士全員が記録し続けることで、それらの相関性を分析し便失禁を未然に防ぐごとができたと言っていました。
信頼と尊敬が自尊心を回復させ、普通の生活を取り戻す最善策だと言っていました。
一方、医師には便失禁は一つの症状であり、生死を分けた重大な病気ではないため、真剣に取り組む対象ではないようにも思います。今回の便失禁ガイドラインが人としての自尊心を取り戻せるきっかけになればいいと思いました。